PCTの水場事情と浄水器(Sawyer Mini・Squeeze)の使用について

こんにちは。からあげです。

 

今回はPCTでの水場の話。私が経験したこと、見聞きしたことをできるだけ詳しく丁寧に説明してゆきたい。

はじめに

ハイカーなら誰でも軽いバックパックで歩きたい。荷物が軽いと体の負担が減って楽に歩くことができるからだ。特にスルーハイカーは時間的制約があるため、歩けるときに少しでも距離を稼いでおきたい。そのため、ハイカーは装備の見直しを何度も行い、不要なものを省いて軽量化を図る。

装備のほか食料、水、燃料も例外ではない。先のルートの状況、自分の体調、天候などを見極めて必要最低限とする。食料や燃料が余りそうなら、ハイカーボックスに投入する、他のハイカーにあげる、腹いっぱい食べるなどして処分する。水なら不要になった時に、いつでもどこでも即捨てる。

ハイカーボックス(Hiker Box)とは、ハイカーのリサイクルボックス。不要な品を投入したり、欲しいものがあったら好きに持って行ったりすることができる。ハイカーのたまり場に設置されていることが多い。
 

Sierraのように雪が多くて雪解け水がそこら中から湧いているところなら、ほとんど水を持たずに歩くことができる。雪解け水は冷たく非常においしい。ただし、良いことばかりではない。逆に水量が多すぎてCreek(川)の渡渉が危険になる。

私がSierraで常時持っていた水の量は約1~2L。もう少し少なくできるのだが、汲み置きしておいて水を温めておかないと、食事を作る際に冷たい水を沸かすことになって大量に燃料を消費する。

ただ、水の話はそう簡単にはいかない。PCTはSierraのように簡単に水を手に入れられる場所ばかりではない。California南部の乾燥地帯では、なんと20mile以上も水場がない区間があったりする。(水場が枯れていると、さらに長くなる。)見渡す限り灼熱の大地が広がっていて、丸一日歩いてようやく次の水場に辿り着けるかどうかという場所もある。そういう場所では、トレイルエンジェルがところどころに用意してくれているウォーターキャッシュを頼ることになる。California南部の他にもCalifornia北部、Oregon南部にも一部水が手に入りにくい区間がある。

私の水なし区間の最長は、Willow Spring(620mile地点)からMclvers Springs(644mile地点)までの24mileだった。Mclvers Springsに辿り着いた時は、嬉しくて嬉しくて小躍りしてしまうほどだった。

Mexico国境のスタート直後からWater Alertが表示されている。
Lake Morena Campgroundまでの18.7mile以内に水場はない。(ラッキーなことに途中で水場を見つけた。)
WR001の水場に寄ってみたが、汲める場所が見当たらなかったため、Campoのコンビニの自販機で水を購入した。

トレイルエンジェル(Trail Angel)とは、ボランティアで送迎、宿泊、飲食の提供などハイカーの支援をしてくれる人。

ウォーターキャッシュ(Water Cache)とは、水場のない場所に置かれたボトルの水。トレイルエンジェルが保守してくれている。

 

トレイルは、Hiker Town(517.6mile地点)を過ぎると、いよいよMojave砂漠に入る。砂漠の辺縁部をかすめるように歩いてゆく。ここがPCTでもっとも暑が厳しい区間と言われている。ハイカーはアクアダクトに沿って歩く。自然の水場がないため、ところどころアクアダクトから水を取り出して汲める箇所がある。私がMojave砂漠を歩く時は約7Lの水を持った。

Hiker Townを出た直後。アクアダクトに沿った直線のトレイルが続く。

水不足となる危険は、Mojave砂漠よりTehachapi・Mojave~Kennedy Meadows間の方が高いと感じる。YogiやHalfmileたちも警告している。最大の難所のMojave砂漠を越えて油断をしていると、非常に危険だ。

携帯した水の最高は序盤のParadaice Cafe手間での約9.5L。落ちていた1ガロンの空きボトルに水を入れて歩いた。さすがにこれは持ち過ぎで、重たくて途中でバテた。

日本は温暖湿潤気候で雨が多く、谷に下りればたいてい水が流れていているが、アメリカは大陸性気候で乾燥しているため水場がかなり少ない。その貴重な水場でさえ、4月下旬のスタートだというのに、続々と枯れてゆく。

水場の少ない乾燥地帯を歩くためには、常に地図で水場の位置を把握しておくことと、PCTAが提供する水場情報(Water Report)の最新版を手に入れておく必要がある。私は英会話能力が3歳児レベルで他のハイカーからほとんど情報を得られなかったので、Water Reportを何度も何度も繰り返し読んで理解した。

私はEntire PCT Water & Snow Report — Google Sheets FormatGoogle Drive(Googleの容量15GBまで無料で使用できるクラウドストレージサービス)に保存し、定期的にアクセスして情報を更新し、オフラインでも閲覧できるようにしていた。ただし、情報が3日程度遅れているので注意する。(山奥はほとんど圏外で、町に下りてきた時にメールで報告しているため、どうしても時間差ができてしまう。必ずどの時点での情報か日付を確認する。)

参考リンクPacific Crest Trail Water Report(https://pctwater.com/)

 

Walker Pass(651mile地点)付近の水場

道路から奥に入った場所にある。一見するとどこにも水場は見当たらない。水音も全く聞こえない。PCTHandbookのタウンガイドに詳しく書かれていたため、発見することができた。

コンクリートの貯水槽が見えたので、あれかなと思って行ってみると水場だった。中にマコモのような植物がびっしりと生えている。

 

水場で注意しなければならいのは、アメリカの水場はトレイルから離れた場所にあることが多いということだ。水場の分岐に標識がないこともあって、水場の存在を知らないとそのまま通り過ぎてしまう。(私は何度か痛恨のスルーをやらかしてしまった。)水場を守るために、敢えてトレイルを離しているのだ。さらに湧き水での話。地層の割れ目から湧き出ているかと思うと、直ぐに地中に吸い込まれて伏流してしまうことが多い。日本のように川の流れとなって延々と下ってゆくことは少ない。そのため、水場はピンポイントで見つける必要がある。

ジアルジアについて

Giardia lamblia SEM 8698 lores
Wiki Media Commonsより

さらにもう一つ、非常に厄介な問題がある。アメリカの水場はジアルジアという寄生虫に汚染されていて、生水をそのまま飲むことができない。そのため、水を煮沸消毒するか、薬剤で消毒するか、浄水器を通す必要がある。

煮沸消毒は、単に沸騰させればいいと言うわけではなく、1分以上沸騰させ続ける必要があるため、たくさんの燃料を消費する。さらに高山帯では気圧の低下により沸点が下がり湯温が上がらないため、十分な効果が得られないことも考えられる。そのため、ハイカーは手間と燃料のかかる煮沸消毒をほとんどしない。

代わりに薬剤か浄水器を使用する。薬剤にはアクアミラ(Aquamira)という錠剤があって水を消毒できるが、高価で薬品臭いとのことだったため、私は浄水器のみを使用した。ウルトラライトなハイカーの中には、必要最低限だけ薬剤を使用し、普段は生水を飲むという強者もいるらしいが、耐性の低い日本人には真似できない方法である。

ジアルジアが厄介なのは、およそ7日から10日間の潜伏期間があって、その後激しい腹痛や下痢に見舞われるということだ。山奥で症状が出れば、行動不能となって非常に危険となる。動きたくても動けずにテントに篭って寝ているうちに食料が尽きてしまうことだろう。ジアルジアに感染しないためには、浄水器の使用が最も有効な方法だ。

浄水器の使用について後ほど詳しく解説することにする。

 

水場の種類

自動販売機

日本のスーパーなどでも見かけることがある水の自販機。アメリカでもよく目にする。ボトル入りのミネラルウォーターより安いのが魅力。味もそこそこイケる。

スーパーの軒先に設置されている水の自販機。ボトルは持参する。
1ガロン(約3.8L)単位の販売となっている。

写真はスタート地点のCampoのお店の軒下にあったもの。

1ガロンで35¢(100¢で1$)と、高いのか安いのかよく分からない価格設定となっていた。地域によって多少値段の違いはあるが、高くても1ガロン50¢だった。

初めての水の購入でよく分からなかったため、入れ替えるボトルを用意していなかった。そのため、かなりの量を零してしまって半分くらいしか水筒に汲むことができなかった。授業料と思ってさらに35¢を投入して手持ちの水筒を満タンにした。

自販機は炎天下の日向に設置されていたため、始めの1Lくらいはカップラーメンでもできるのではないかと思うほどの熱湯が出てきた。

ミネラルウォーター

アメリカのコンビニ、スーパーなどでは、たいていボトル入りミネラルウォーターが売っている。町に行っても公園やトイレが見つからず、水が汲めないことがあるので(遠くて面倒くさいという時もある)、そういう時にミネラルウォーターを購入する。

写真は1ガロンボトル。Lake Morenaのお店では3$だった。大きな町だと2$程度。1ガロンボトルは数えるほどしか購入しなかったため、ほとんど記憶に残っていない。当たり前のことだが、バックパックが一気に重たくなるのが嫌だった。

ハイカー定番のミネラルウォーターのSmart Water。私が確認したのは、500ml、750ml、1Lの3種類。750mlで2$くらい。容量の大小でそれほど値段が変わらない。耐久性のあるソフトボトルで浄水器に直に付けて使用する。中のミネラルウォーターはおまけ(中身の水はかなり美味い。)で、本当に欲しいのはボトルだったりする。

細長い形状でバックパックのサイドポケットに入れやすいこともあってハイカーたちにとても人気がある。ハイカーのたまり場のゴミ箱には必ずと言っていいほどSmart Waterのボトルが捨ててある。手持ちの傷んだボトルを交換するチャンスだ!

ウォーターキャッシュ

ウォーターキャッシュはトレイルエンジェルが用意してくれている水。乾燥地帯の要所々々に整備されている。近年ハイカーの増加に伴って、ウォーターキャッシュの供給が追いついていない印象を受けた。Water Reportの情報を鵜呑みにしていると大変な目に遭う。

空っぽのボトルだらけのウォーターキャッシュ。

ある場所では3日前の情報によると、まだたくさんあるとのことだったが、実際に行ってみたら全てなくなっていたことがある。どうもハイカーの増加だけが理由ではなさそうだった。ハイカーたちの水の浪費、ウォーターキャッシュを頼りにし過ぎることも理由に挙げられる気がする。

PCT序盤、Julianの町へのヒッチポイント付近

ハイカー達のオアシス。橋の下が日陰となっていて、休憩するには最適なスポットだった。そこにウォーターキャッシュがたくさん用意されていた。私は始めここを知らずにそのまま町へと行ってしまい、戻って来た時に寄って休憩した。

ボトルの山。大きな入れ物に入れられていた。ウォーターキャッシュの他にゴミ箱も設置されていた。

小じんまりとしたウォーターキャッシュ。California北部のHut Creek Rim付近で見かけたもの。予想以上に暑く水の消費量が多かったため、少しだけ頂いた。

PCTはウォーターキャッシュなしでは歩くことができない。(一部の超人は除く。)

時々、「Emergency」と書かれたボトルウォーターが数本が置いてあるところがあるが、これは非常用の水として置いてあるもの。気軽に貰ってはいけない。

人工水場

ここでは自販機とウォーターキャッシュ以外の人工的な水場を紹介する。自然の水場と比べて見つけやすいかというとそうでもない。標識が整備されていなかったり、建物の影にあったりして分かりにくいこともある。怪しい場所では他のハイカーに聞くか、自分の足で歩いて探し回る。

山奥の公園の水道

山の斜面に設置された貯水タンクから供給されている。一見すると水道管が繋がっているようにみえるが、見渡す限り民家はなく貯水タンクの水であることが分かる。念のため浄水器に通して飲む。

こちらも貯水タンクから供給されている水場。大きな貯水槽は馬用となっている。PCTは徒歩の他に乗馬もOKとなっている。

貯水槽には大量の蚊が浮いていた。他に水がなかったら、こうした汚い水も浄水して飲む必要がある。

町中のキャンプ場や公園の水道

水道管が繋がっていて気楽に使うことができる。わざわざ寄り道して水をくむことがある。塩素消毒されているため(おそらく)、生で水を飲むことができる。いちいち浄水器を通さなくてもよいので利便性は高い。(不安を感じたら浄水器を使用したほうがいい。)

貯水タンク(127mile地点)

乾燥地帯のトレイルエンジェル宅の入り口に設置されていたもの。時々補給してくれているらしい。ドネーションボックス(寄付金箱)が置かれている。

この貯水タンクには本当に助けられた。水の重さを嫌って次の水場で汲もうと歩いているうちに途中で汲みそびれてしまった。そして夕方、ようやくたどり着いたのがこの水場。

乾燥地帯では水は貴重品。飲む分だけ分けてもらうようにしよう。顔や手を洗うのはもってのほか。

林道脇で見つけたコンクリート製の枠。この時、水場を探してあちこち彷徨っていた。
枠の上にボトルが置いてあって気がついた。おや?匂うぞ!

通常はパイプから水が湧き出ているようだが、辿り着いた時にはすでに枯れていてパイプの中に溜まった水しかなかった。この水をどうやって取り出そうかと考えた。

浄水器洗浄用の注射器を使って吸い出すことにした。先に付属のホースを付ければ、狭いところやより深いところまで吸い出すことができる。

750mlのボトル1本分水を手に入れることができた。

Hiker Town手前(502mile地点)Red Rock Water Tank

小高い丘の上に設置された貯水タンク。

コンクリート製の半地下の貯水タンク。建造されたのは、なんと1960年(60年以上前)だった。
タンクのフタはすり鉢状になっていて、雨水が中に落ちる仕組みとなっている。

フタの穴

ここからロープを付けた容器を下げて水を汲む。

タンクの中のようす

水を汲もうとしたハイカーが落としたと思われるペットボトルや折り畳み水筒が落ちていた。Water Reportによれば、鳥の死骸が落ちている(誤って中に入ってしまった鳥が出られなくなって餓死したものと思われる)とのことだったが、どこにも見当たらなかった。手持ちの水が少ない状況だったので、贅沢は言ってられなかった。

備え付きの水を汲む容器。ペットボトルに石を詰めて沈められるようになっていた。
何度か汲んで水筒をいっぱいにした。外は暑かったが、水は冷たく非常に美味しかった。

アクアダクトから水を取り出して水を汲めるようにしているところ。San Jacinto Peakを下りたところにあった。雪山から下りると周囲は乾燥していてどこにも水が見当たらない。湿潤な山から乾燥地帯へと気候が急変する。

蛇口の形状が悪くて、かなりの水をこぼしてしまうことがある。この蛇口はウォータークーラーの水のように下から吹き上げてくるタイプで、細いスマートウォーターのボトルでキャッチするのは難しかった。

下に見える緑の濃い部分に集落がある。San Jacinto Peakから雪解け水をアクアダクトで引っ張ってきていて、途中で水を汲めるようになっている。ありがたく汲ませてもらった。
Mojave砂漠のアクアダクトにも水を汲める場所がある。

San Jacinto Peakを見上げる。貴重な水をありがとう!不思議と感謝の気持ちが湧いてくる。

自然の水場

湧き水から自然に流れるCreek、岩から滲み出る清水、湖や池など種類は豊富。トレイルから脇道に入ったところもあって、地図なしには発見が難しいところもある。水質が悪いところもあるが、贅沢を言わずに浄水器を通して飲む。

乾燥地帯のCreek

Mojave砂漠を抜けたところにあった水場。乾燥地帯でも豊富に流れている貴重なCreek。ここぞとばかりにたくさん水を汲み、がぶ飲みした。

水源は枯れて貯水槽に溜まっているのみの場所。落ち葉や虫の死骸が多くて飲む気にはなれなかったが、あとになってここで汲んでおけばよかったと後悔した。

乾燥地帯の中のオアシス(Golden Oak Spring)

非常に貴重な水場。戻るも進むも20mile水なし区間となっている。

湧き水をパイプで引っ張ってきて貯水槽に貯めている。水源が枯れたら貯水槽の中の水を飲むことになる。

Willow Spring(620mile地点)

トレイルからかなり寄り道してやって来た水場。先行するハイカーの踏み跡を頼りにたどり着いた。道路から少し中に入ったところにあって分かりにくかった。

巨大な貯水槽が設置されている。この水場でさえ、いつまで持つのか分からない。

夕方近くだったため、ここで泊まるハイカーが結構いた。できるだけ水を持ち歩かないようにするには、水場の近くで泊まる。そして翌朝出発前に水をがぶ飲みする。ハイカーをしていると自然に食い溜め飲み溜めができるようになる。

時には南に向かって歩いているハイカーが水場の情報をくれることもある。目立つ標識のところにメモ帳の切れ端が挟んであったりする。

Oregon山中にて。

草をかき分けて水場を発見。ビニールパイプからチョロチョロと出ていただけだった。

Oregon南部 Six Horse Spring(1870mile地点)

尾根上のPCTから4/10mileも下りたところにある水場。手持ちの水が少ないため、汲みに下りてゆくしかなかった。

尾根上からアクセスできる貴重な水場だが、すでに8月に入っていたため、水量はかなり少なかった。そのため、葉っぱを石で留めて(トイのようにしている)汲みやすくしている。塩ビ管などの人工物を使わないため、非常にエコロジー。

Oregon山中の有刺鉄線に囲まれた水場。

 貴重な水源のため立ち入り禁止にしてあるようだったが、中に入らないと水が汲めなかった。

フタのすき間から大量の水が出ていた。近くで耳を済ましても僅かな音しか聞こえなかった。水場の発見は地図が頼りだ。

広大な湖

水量が多いため、水質は意外に良くて美味しい。自然の浄化作用も働いているようす。OregonとWashingtonでは湖にお世話になることが多い。

小さな池で汲む時は、倒木の上を歩いてできるだけ深い場所で水を汲む。

さらに水量の少ない池。徐々に干上がりつつある。見た目からして水質は良くないが、付近には他に水がないため、ここで汲むしかない。

色付きの水を汲む。浄水器で濾すと多少色が薄くなる程度。
泥臭くて味も良くない。

 

水くみバケツ(半切りプラティパス)の有効性

岩のすき間から滲み出している水を汲んでいるところ。細い水が広範囲に出ているこういう水場では、半切りのプラティパスが大活躍する。柔軟に形を変えて岩に密着できるのがポイント。狭い口のペットボトルで汲んでいるととてつもなく時間がかかってしまう。実際にそういうハイカーを目にして大変だなあと他人事のように思った。

時には浅い水場で活躍することもある。ペットボトルは浅い水場では汲みにくい。

穴の空いたプラティパスを半分(半分より大きめが使いやすい)に切って水くみバケツを作る。穴が空いたころ、手持ちのバケツがボロボロだったため作り変えた。

水くみバケツの他に洗濯物の手洗い用バケツとしても利用できる。

 

浄水器の使用について

Sawyer MiniとSqueeze

PCTHandbookを事前に読んで、アメリカの水場は寄生虫のジアルジアで汚染されているため、浄水器が必要なことが分かった。そこで日本出国の随分前にAmazon.comでSawyer Miniという浄水器を購入しておいて現物確認とテスト使用をしておいた。

 

写真は並行輸入品。本場アメリカで販売されている Sayer Miniだ。

 

SAWYER Mini
ソーヤー ミニ SP128
手のひらサイズの高性能フィルター

■内容
 PointONEミニフィルター×1
 0.5LパウチX1
 ストロー×1
 洗浄用注射器(針なし)、日本語説明書兼保証書

■サイズ・重量
 PointONEミニフィルター:約55g、全長13.5cm
 最大部分の直径約3.5cm

 0.5Lパウチ:約19g、約22.5×12.5cm(キャップ部分を除く)

■フィルター素材:Hollow Fiber
■フィルター孔サイズ:0.1ミクロン
■ろ過能力:38万リットル
【原産国】アメリカ

正規代理店による販売です(半年間のメーカー保証および日本語説明書付き)
正規品は食品衛生法の定める基準を満たすよう一部の部品を日本向けに再構成しております。
※並行輸入品は食品衛生法の定める基準を満たしておりませんので、ご注意ください。

説明文は日本正規取り扱い代理店株式会社アンプラージュインターナショナルのHPより

参考リンク アメリカSawyer社 Sawyer Mini製品ページ

 

写真の下は本場アメリカで販売されている Sayer Squeeze。

 

SAWYER Squeeze Filter
ソーヤー スクィーズ フィルター SP129

クリーニングカップリングや0.5L・2.0Lパウチは付属していないSP131の簡易版です。
新しくグラビティシステムが利用可能になりました!

■内容
 PointONEフィルター×1
 1.0Lパウチ×2(0.5Lパウチ・2.0Lは付属しておりません)
 メッシュバック×1、グラビティチューブ×1、
 インラインハイドレーションアダプター×1
 洗浄用注射器(針なし)、日本語説明書兼保証書
 ※メッシュバックを吊すハンギングストラップは別売りです
■サイズ・重量
 PointONEフィルター:約71g、全長14.5cm
 最大部分の直径約5cm 
■フィルター素材:Hollow Fiber
■フィルター孔サイズ:0.1ミクロン
■ろ過能力:380万リットル
【原産国】アメリカ

正規代理店による販売です(半年間のメーカー保証および日本語説明書付き)
正規品は食品衛生法の定める基準を満たすよう一部の部品を日本向けに再構成しております。
※並行輸入品は食品衛生法の定める基準を満たしておりませんので、ご注意ください。

説明文は日本正規取り扱い代理店株式会社アンプラージュインターナショナルのHPより

参考リンク アメリカSawyer社 Sawyer Squeeze製品ページ

 

アメリカ現地で販売されている並行輸入品と日本国内で販売されている正規品の違いについて、株式会社アンプラージュインターナショナルにメールで尋ねてみたが、明確な回答は得られなかった。日本国内で使用するなら、無難に半年間のメーカー保障の付いた日本正規品を購入した方がいいだろう。

ジアルジア(Giardia)について

Giardia lamblia SEM 8698 lores

Wiki Media Commonsより

ジアルジア症とはGiardia lamblia の感染によって引き起こされる下痢性疾患である。本症の感染経路はいわゆる糞口感染で、ヒトとヒトの接触や食品を介した小規模集団感染と、飲料水を介した大規模な集団感染が知られている。

病原体はG. lamblia で、ランブル鞭毛虫とも呼ばれる。その生活史は栄養型と嚢子よりなる。栄養型虫体は洋ナシ型で、長径10〜15μm短径6〜10μm程度の大きさである。

嚢子は長径8〜12μm短径5〜8μmの長楕円形で、4核となり、他に軸子、鞭毛などが観察される。

国立感染症研究所HPより

 

アメリカの水場は寄生虫のジアルジアに汚染されており、川や沢の生水をそのまま飲むことはできない。ジアルジアの大きさは小さくても5μm程度で肉眼では見えない。浄水器(Sawyer Squeeze、Mini)のフィルターの目の大きさが0.1μmなので、浄水器を通せばジアルジアを除去できる。

ちなみに日本の北海道でみられるエキノコックスは、親虫は体長が3~4㎜、卵で0.03mmなので、浄水器(Sawyer Squeeze、Mini)を使用すれば除去できる。

マイクロメートルとは、国際単位系(SI)の長さの単位。1マイクロメートルは100万分の1メートル、すなわち1000分の1ミリ。記号μm ミクロン。
コトバンクより

参考リンク キツネとエキノコックス 北海道立衛生研究所

 

実際の使用

実際にSawyer MiniをPCTで使ってみると、浄水能力が低くて使い勝手が悪いことが分かった。水場に着くと直ぐに浄水作業を始めるのだが、あとから来たハイカーが手早く浄水を済ませて先に行ってしまうことが多かった。それらのハイカーが使っていたのは、Sawyer Miniよりも少し大きいSawyer Squeezeというモデルだった。

さらに浄水方法について。

始めはこのように重力式で浄水していたのだが、圧をかけられないため、浄水能力が低いソーヤーミニだとさらに時間がかかった。重力による方法は、手を離したままできるため、その間休憩できるが、たいてい目詰まりを起こして途中で止まってしまう。乾燥地帯の水量が少ないCreekなどでは、藻が多くて直ぐにフィルターが目詰まりを起こすため、頻繁に浄水器を洗浄する必要があった。それに重力式で濾過しようにも、プラティパスを吊り下げる木がないところもある。重力式はあまり有効な方法ではなかった。

さらに吊り下げできるプラティパスのホーサーは自立しないのため、浄水器の付け外しになどがとてもやりづらかった。

 

Sawyer Squeezeを手に入れたのは、518mile地点のHiker Townだった。ここは荷物の受け取り可能なハイカーの重要拠点で、Amazon.comで購入してHiker Townに送っておいた。Sawyer SqueezeはMiniより2周りほど大きいが、浄水能力が高く使い勝手が良い。

PCTで使用される浄水器はペットボトルに付けられて手軽に利用できるSawyerが圧倒的に人気で、その中で浄水能力が高いSqueezeが7割くらいを占めていた。(知らないと値段とコンパクトさに釣られてついMiniを買ってしまう。)浄水能力の違いは実際に使ってみないと分からない。あまりの性能の違いに途中でSqueezeに買い換えるハイカーが続出していた。(私もその一人)そのため、PCT沿線上の町のアウトドアショップでは常にSqueezeが品薄状態となっていた。

Squeezeで浄水しているところ。

他のハイカーのやり方を見て真似してやった、ペットボトルに直付けして中央を握りつぶして圧をかけながら浄水する方法が一番楽で効率が良かった。
握り潰しては浄水し、途中で空気を入れてボトルを膨らませては再び握り潰す。毎日していると、一連の動作を無意識で行えるようになってくる。

どの水場でもたいていペットボトルのペコペコという音が聞こえてくる。

水の浄水は、受け側のペットボトルを水に挟み、浄水器が付いたペットボトルを両手で持って潰すと効率よく作業できる。ついうっかりボトルを倒してしまうことがないし、浄水中に座って休憩もできる。できるだけタイムロスをなくす方法だ。写真はペットボトルが写りやすいように若干股を広げている。

一日中歩いていると、ハイキング中毒になってしまうのか、立ち止まって休憩したくない時がある。

プラティパスなどのソフトボトルを付けて浄水も行っていたが、残りの水が少なくなると圧をかけづらくなって浄水スピードが遅くなった。それに手で無理に押しつぶすため、プラティパスにも負担がかかる。

Smart Waterのペットボトルが適度に柔らかくて押しつぶすのにちょうどいい。おまけにしっかり自立してくれるため使い勝手は良い。

Smart Waterのボトルを毎日毎日浄水に使ってつぶしていても500mileくらいはなら余裕で持つ。高くて使い勝手の悪いプラティパスを使うより、そこそこ耐久性のあるペットボトルを使用した方が便利で安上がりとなる。

浄水は2ボトルシステムを採用。

ペットボトルは浄水専用ボトルと浄水した綺麗な水を入れる飲用ボトルの2本使用していた。浄水器はペットボトルに付けたままフタをして、バックパックのサイドポケットに挿していた。濡れていても直ぐに乾くし、残量が分かるし、頻繁に出し入れするため、外のポケットの方がいい。さらに水場の状況によっては、飲用ボトルの量を増やしていた。

水量の多いCreekを渡渉する時は、バックパック外側につけた浄水器は中に入れておいた方が安全だ。何かの拍子で大事な浄水器が流されてしまうおそれがある。
 

水場では、浄水専用ボトルでとりあえず水を汲み、必要な分だけ浄水して別のボトルにいれておくか、浄水器から直飲みする。水を汲んだその場で全ての水を浄水すると、不要になった水を途中で捨てることもあるため、浄水する手間と時間が無駄になる。たいてい必要な分だけ浄水するようにしていた。捨てる時は、浄水していない水から先に捨てた。

浄水器から直飲みしているところ。

汲んだその場で冷たくおいしい水を飲むことができるのが最大のメリット。水が豊富な区間では、水場でがぶ飲みして余った水はその場で投棄する。

できるだけ不要な水は持たないようにするためのハイカーの知恵。自然と身についてくる。

 

浄水器の洗浄

浄水器はメンテナンスフリーで使えるというものではなく、定期的に洗浄してやる必要がある。特にSawyer Miniはフィルターの表面積が狭いため、汚い水を浄水すると直ぐに目詰まりを起こす。Miniの時はたいてい毎日洗浄していたが、Squeezeに変えてからは週に1回程度で洗浄すれば良かった。ただし、Squeezeはフィルターの表面積が広いため、1回だけではきれいにならなくて、一度の洗浄で2,3回繰り返し行う必要がある。

浄水能力はSqueeze、Miniとも100,000ガロン(380万リットル)で、こまめに洗浄して適正に保管していれば、失くすか壊れるまで半永久的に使用することができる。

 

写真の一番下が浄水器付属の注射器。(針なし)50mlまで目盛りがあって、最大で80ml程度入れられる。注射器はかなり大きくて嵩張る。最新型のSqueeze SP131には、クリーニングカップが付属していて、注射器なしに出口側にペットボトルを接続して洗浄できるようになっっている。旧型を購入した時、なぜペットボトルを接続できないのか不思議だった。注射器不要になれば、装備の軽量化を図ることができる。注射器は洗浄以外に使いみちがない。

洗浄は浄水器の出口側から注射器で綺麗な水を通してフィルター内側に付いた汚れを流してきれいにする。浄水器の出口側は常に清潔に保つ必要があるため、フタが付いている。

注射器の先端。針は付いていない。

Sawyer Miniに接続したところ。

出口と注射器の先を合わせて軽く押し付ける。

Sawyer Squeezeに接続したところ。

Squeezeの出口。こちらもピタリと合うようになっている。

洗浄水は、浄水器を通した綺麗な水を使用する。
洗浄は注射器を勢い良く押して洗浄する。Squeezeの場合は水量が足りないため、数回行う必要あり。

浄水器の故障

構造が単純な浄水器だが、購入したパッキンが小さくて使っているうちに浄水器から外れてしまった。写真のSawyer Squeezeは、South Lake Tahoeで購入した二代目で、なぜかパッキンが小さかった。(Amazon.comで購入した一代目はパッキンが大きくて外れることはなかったのだが、Creekの渡渉に失敗した時に流されてしまった。)

パッキンは浄水器とペットボトルを繋いだ時、水を漏れないようにするための重要な役割を果たす。フィルターに次ぐ重要パーツとも言える。ペットボトルを直付けして浄水する場合、途中で空気を入れるため、緩めたり締めたりを頻繁に行うため、パッキンが外れるようだと非常にやりづらい。

外れてしまったパッキン。アメリカ製のクオリティーはこんなものかと落胆した。

出先で大きめのパッキンを自作できないため、接着剤でくっつけることにした。
使用した接着剤は、アウトドア用の防水タイプ。ゴムでも接着可だった。

接着剤でくっつけたものの、外れないか気にする必要があったし、実際に途中で外れてしまい再び接着剤でくっつけなければならないこともあり、非常に煩わしい思いをした。

バウンスボックスに入れていたSawyer Miniと入れ替えることもできたが、浄水スピードの速いSqueezeを気をつけて使い続けることを選択した。

 

ハイドレーションシステム

飲料水は浄水器ペットボトル直付けてそのまま飲むことも多かったが、基本的には浄水した水をプラティパスに入れてハイドレーションホースを付けてこまめに水分補給していた。一気にまとめて飲むより少しずつ飲んだほうが水の消費量を少なくできる。

ホースの途中に浄水器を付けることも検討してみたが、ホースが硬くて思いのほか着脱が大変で、しかもホースが外れるおそれがあるため、現実的な方法ではないと分かった。

 

使用したのは折りたたみできる2Lのプラティパスで、最大で2.5L入れることができる。
汲んだ水を浄水してプラティパスに入れておいて、バックパックの中の背中の方に入れておくと、歩いているうちに温まってくる。冷たい水を飲みすぎると胃腸に負担がかかるし、燃料のガスを余分に消費するため、温めておいた方が良い。

 

プラティパス水筒は折りたたんでコンパクトにできる他、ハイドレーションホースを付けて行動中にこまめに水分補給ができるメリットがある。しかし、そのメリットと引き換えに低い耐久性を受け入れなければならない。

PCTにはおよそ半年ほど使用したプラティパスを持っていったが、約1000mile歩いたころで1回目の水漏れ、途中で買い替えたプラティパスも約1000mileで水漏れがした。

水漏れする箇所は注ぎ口の付け根。ボトルネックが弱点となっている。

そこでテントやカッパなどの補修用テープを貼ってみた。するとボトルネックは丈夫になったものの、今度は水筒真ん中付近の折れ目が付くところから水が漏れた。材質上、それほど耐久性があるわけじゃないので仕方ない。

ゴール間近山間のリゾートStehekin(2569mile地点)にてプラティパスから1LのSmart Waterのボトルに変更した。StehekinにはなぜかSmart Waterが売っていなかったので、ゴミ箱で拾った1LのSmart Waterのボトルを使うことにした。ハイカーが捨てた使い古したボトルだったが、まだまだ十分使えた。

プラティパスとSmart Waterのボトルのネジ山のピッチはだいたい合うため、ハイドレーションホースを繋ぐことができる。

Smart Waterのペットボトルの場合、ハイドレーションホースを繋いでもボトルがプラティパスほど柔らかくないため、口を下に向けてバックパックに入れる必要がある。容量が少なく頻繁に継ぎ足す必要があったため、外のメッシュポケットに逆さにして入れていた。ハイドレーションホースは細いロープでストラップに縛って固定した。

水を飲むとペットボトルが潰れるため、一度にたくさんの水を飲むことができない。飲んでは空気を吹き入れてペットボトルを膨らます必要がある。一度にたくさんの水を飲めないだけで、他に使い勝手が悪いところはない。ペットボトルだと手軽にボトルを交換できて耐久性を気にする必要がないため、気楽に使用することができる。ペットボトルに繋いで歩いたのは最後の90mileほどだった。

 

まとめ

水が豊富な早い時期に歩こうとすれば、Sierraの深い残雪に苦しめられるため、それほどスタートを早められない。遅めのスタートでも、事前に地図やスマホアプリを用意して常に最新の情報を手に入れておけば、それほど水不足にならなくて済む。厳しいところにはウォーターキャッシュがあったりする。

私は主食がインストラーメンのマルチャンだったため、水の消費量が多かった。暑い砂漠地帯でも汗を流しながらマルチャンを食べ続けていた。今になって冷静に考えると馬鹿みたいに思えるが、当時はマルチャンしかなかった。

私は浄水器を使ったのが今回のPCTで初めてだったが、使っているうちに自然と使い方を身に着けた。周囲のハイカーたちを観察して同じやり方を試してみたりもした。日本では浄水器の使用はあまり馴染みがないが、エキノコックスの危険がある北海道では浄水器は大活躍するだろう。上水道がストップする大きな災害時にも有効だ。

今後の海外では上水道事情があまり良くない発展途上国では必須の装備となりそうだ。事前に使い方に慣れておいた方が安全性が高まる。せっかく奥地まで行ったのに、下痢と腹痛で倒れてしまっては勿体ない。水なんてそこら辺で汲める日本とは全く違い、アメリカは乾燥していて水が手に入りにくい。今回のPCTは本当に勉強になった。今後の活動に活かしてゆきたい。

 

おわり

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