モンベル寝袋 アルパイン ダウンハガー800 #2 PCTでの使用感とメンテナンスについて

こんにちは。からあげです。

はじめに

寝袋は泊りがけのハイキングにはなくてはならない道具。寒い中でも体温を保ち、明日への気力と体力を回復させてくれる。今回のPCTではシェルター、バックパックに並んで最も重要な道具の一つだった。

 

PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)はアメリカ西海岸のメキシコ国境からカナダ国境までにおよぶ約2600mile(4,200km)におよぶロングトレイル。南カリフォルニアの乾燥地帯やシエラネバダ山脈、ワシントン州の高山地帯など気候の振れ幅が大きい。
PCT最高地点はシエラネバダ山中のForester Pass(13200ft 約4000m)。長大なロングトレイルをスルーハイクするためには、残雪が多く残る時期にSierraを越えなければならない。さらにゴール間近のワシントン州北部ともなれば、9月下旬にもなると降雪のおそれがある。

スルーハイカーのバイブルとなっているYogi’s PCT Handbookによれば、寝袋一つでゆくならば-6度まで対応するものがベストと書かれていた。これまでの私は外国での登山経験はなく、頼れる人もいなかったため、信頼できる情報を元に道具の選定をしなければならなかった。

 

寝袋はシエラネバダとワシントン州の高山帯での使用を重視して、Yogiが推奨する-6度まで対応の十分な保温力を持つものにした。始め貧乏根性を出して無謀にも長年使用した使い古しのモンベルのダウンシュラフ#3を持って行こうと考えた。その寝袋は長年の使用で劣化が進み保温力が相当落ちていたため、一度洗濯してきれいにしてみた。しかし、どうみても高山帯に耐えうる保温力を持っているとは思えなかった。

ダウンシュラフを自分で洗濯して節約する
ダウンシュラフは中性洗剤を用いて自分で洗うことが可能です。 じっくりと陰干しで自然乾燥させれば、もとのフカフカの寝袋になります。 高いクリーニング代を払う必要はありません。 ただし、自己責任で行ってください。

 

高山帯と低地で寝袋を使い分けることも考えてみたが、現地に協力者がいないと途中での道具の交換は難しい。
アメリカと日本の間で荷物をやり取りをすることもできなくはないが、多大な時間とお金がかかるし協力者も必要。(日本から安価なSAL航空便でベアキャニスターなどを送ったところ、約2週間と4,000円弱かかった。)それに山奥をハイキングしてゆくので、自分の好きなタイミングで替えることは難しい。

以上のことから、一つの寝袋で乗り切ることにした。

 

寝袋選びの候補

寝袋選びで候補に上がったのは、モンベルのアルパインダウンハガー800 #2とナンガのAURORA light 450DXの2つだった。どちらも日本の信頼できるメーカだ。

モンベル アルパインダウンハガー800 #2

リミット温度 -4度、コンフォート温度 1度 800FP
収納サイズ φ16×32cm、重量 737g(スタッフバッグ込み)

ナンガ AURORA light 450DX

リミット温度 -5度、コンフォート温度 0度 750FP
収納サイズ φ14×30cm、重量 865g(スタッフバッグ込み)

 

2つの寝袋はほぼ同じ使用温度帯だが、重量ではモンベルの方が100g以上も軽くて値段も安い。スペック上の差では歴然である。私はこれまで長年モンベルの寝袋を愛用していたこともあり、モンベルのアルパインダウンハガー800#2に決定した!

 

PCTでの使用感

今回、新規購入したモンベルの寝袋は、PCTで約5ヶ月間、のちの野宿旅で約1ヶ月間、計半年間使用した。
スタートからシエラネバダの玄関口のKenney Meadows(702mile地点)までは、シェルターなしのカウボーイキャンプを積極的に行い、Kenney MeadowsからゴールのCanadaまではたいていツエルトを設営して泊まった。(シエラネバダ後半とオレゴン州は蚊が多くて、とてもじゃないがカウボーイキャンプできなかった。)

南カリフォルニア州でのカウボーイキャンプのようす

乾燥地帯は夜間になると多少冷えるが、それでも#2(快適温度1℃)では暑いくらいだった。
そこでサイドのファスナーを全開にして掛け布団のようにして上に掛けて眠った。

寒暖の差が激しく気温に体を対応させるのが大変だった。

参考カウボーイキャンプ(Cowboy Camp)とは、シェルターなしでそのまま寝ること。昔カウボーイが露天でそのまま寝ていたことからアメリカではこう呼ばれる。寝ながら星空が見えて開放的で病みつきになる。その他にテントの設営撤収の時間を省くこともできる。夜露が下りない場所では有効な野宿方法。

 

San jacinto Peak手前、Idyllwild(179.4mile地点)では降雪に見舞われたこともあった。この時、ツエルトはバウンスボックスに入れていてタープポンチョのみ。仕方なくタープを張って眠った。

少しでも濡れないように折りたたみ傘で開口部を塞いでみたものの、タープが小さいためはみ出た寝袋が濡れて保温力が落ちてしまった。幸い気温はそれほど下がらなかったため、寝袋の中に入っていれば、寒さを感じることはなかった。

参考バウンスボックス(Bounce Box)とは、トレイル上で使わない充電器や予備のバッテリーなどを入れておく箱。郵便局留めでルート先の郵便局に送っておく。そうすることで余計な荷物を減らして楽に歩くことができる。
 

Glen Pass過ぎの湖の畔でキャンプのようす

シエラネバダ前半(Mammoth Lakes~Ashlandまでスキップする以前)の6月上旬から中旬までは残雪がかなり多い状況で、夜間になると気温はマイナス以下まで下がった。

トレランシューズを外に置きっぱなしにすると翌朝カチンコチンに凍って履くのが大変になったり、プラティパスのハイドレーションホースが凍って水が飲めなくなったりした。

ただし、寝袋の保温力は十分でも、断熱性能が低いリッジレストの上で寝るとなると、しっかり場所を選ばなければならない。雪上キャンプは時間とともに体温が奪われ寒くて眠れなくなったり、眠りが浅くなったりして体力を消耗してしまう。そこで雪上を避けて日当たりの良い岩や地面の上にツエルトを張って泊まった。そのため寒くて眠れなくなることは一度もなかった。

断熱性能抜群のエアマットは空気漏れのおそれがあるうえに高価なので始めから選択外だった。

シエラネバダ恒例の天日干し

天気が良くてもツエルトが結露でずぶ濡れになると寝袋も濡れるため、日当たりの良い場所で朝食にしてその間干しておいた。好天が続くPCTだからこそできることであった。朝から日差しが強く短時間で乾いてくれた。

9月中旬、ゴール間近のワシントン州北部ともなると、朝晩の気温はマイナスまで下がるようになっていた。ワシントン州は湿潤な気候で、朝晩冷え込むとたいてい結露でツエルト内部がずぶ濡れになった。

結露の湿気と長期使用による汚れのため保温力が大幅に下がり、ツエルト内で寝ていてもかなりの寒さを感じるようになっていた。しかし、ハイキング中の身ではどうにもすることができず、手持ちの衣類を全部着込み寒さを凌ぐことしか出来なかった。

 

半年間毎日使用した寝袋の状態

10月中旬、日本に帰国して秘密基地の山小屋に戻った。変わり果てた寝袋を取り出して写真を撮影を行った。新品当時ふわふわだった寝袋の面影は全くない。

無残にもペチャンコに潰れて獣のような異臭を放っていた。(ハイキング中はほとんどシャワーを浴びなかった(浴びれなかった))

モンベル独自のストレッチシステムは、PCT半ばの早期に破綻してだらしなく広がるようになっていた。

首のマジックテープ付近

それほど傷みは見られないが、汚れがかなり目立つ。

サイドのファスナーは良好だった。半年間使用し続けてもスムーズに開閉することができた。
さすがYKK。

汚れが一番酷かったのは首周り。おっさんの脂と汗でテカテカに光っていた。

おぞましい汚れのようす。うわ、ばっちい!

寝袋の収納袋は中に防寒着のフリースや着替えを入れて枕にして使っていた。そのため頭皮の脂を吸い込みかなり汚れが付いていた。

汚れが一番ひどい首周りを透かす。

中のダウンは脂汚れで団子状になっていた。

陽の光で透かしてみると、このようにダウンの偏りが一目瞭然。足元も足の汚れでドロドロになっていた。

 

使用後の寝袋のメンテナンス

寝袋は中まで汚れて保温力が著しく低下し異様な臭いを放つようになってはいたが、まだまだ生地は大丈夫なため捨ててしまうのは勿体ない。以前やったように自分で洗うことにした。ダウンシュラフ専用の洗剤も売っているが、高いので使わない。

 

洗濯から乾燥までの行程

40度のぬるま湯を張った湯船に中性洗剤を100ml投入して良く撹拌。そして寝袋を沈めてゆっくり足踏みをしながら丁寧に洗った。やさしく丁寧に水を切ったあと、脱水機で1分間脱水し、日陰に1週間以上干しておいた。

洗剤を使った洗濯 1回、すすぎ 3回

脱水 脱水機1分間

乾燥 日陰の場所で自然乾燥(1週間以上)

*ポイントは乾燥機を使わずに自然乾燥でゆっくり乾燥させること。

 

前回同様に家庭用中性洗剤を使って浴槽にお湯を貯めて手洗いする。

使用する洗剤は家庭用の中性洗剤でおなじみのアクロン。ドライマークの付いたウールも洗うことができる。細かいことは気にしない。

 

洗剤の量は100mlで軽量カップともなるフタ2杯半。

およそ40度のぬるま湯を張りながら洗剤を入れて良く撹拌した。

まず寝袋を沈める。空気が入っているのでなかなか沈まない。優しく根気よく沈めてゆく。

ある程度沈んだら、足で踏みつけて洗う。優しく丁寧に洗う。
およそ15分。

首周りの生地が一番汚れていた。たわしで軽くこすっておいた。

水切りのために浴槽の縁に乗せる。赤子を扱うように優しく。乱暴に扱うと生地に負担がかかる。

縁に掛けておくより、下においた方がいいことに気がついた。

ある程度水切りができたら、優しく踏んでさらに脱水する。汚れた洗剤はよく切っておいたほうがいい。

洗剤を使って洗濯したあとのようす

水が茶色く変色し泡立ちがかなり悪かった。

すすぎは丁寧に3回行った。

3回目ですすぎの水が綺麗になった。しつこくやリ過ぎると寝袋が傷むので程々にしておく。

踏んでしっかり水切りを行ったあと、優しく抱きかかえるように持ってゆき脱水機に投入した。偏らないように広げた。

脱水のみ1分にセットした。

脱水後のようす。回ったと思ったらすぐに止まった。機械での脱水は必要最低限としておく。

あとは日陰に広げて干しておく。生地やダウンに負担がかからず通気性のよい、アミアミの金網の上で干すのがベストだと思われる。実家では物置内の物干し場が一番良かった。

洗濯直後のようす

ダウンは完全に団子状となってしまっている。しかし慌てず焦らない。そのまま干しておく。

およそ一週間後。干してそのまま放置していただけでふかふかになった。

そしてさらに3日干したところで、ようやく今日取り込んだ。
多少ダウンが偏っていたので、軽くパンパンと叩いて均一にした。

見違えるほどきれいになった寝袋。

ダウンのロフトは回復してふかふかになった。

あとは専用の保管袋に入れておく。これでヨシ!次も頼むぞ。

アルパイン ダウンハガー800 #2を使用した感想

リミット温度-4度の寝袋は、寒さが厳しいシエラネバダ山中でも一晩寝ると元気になった。どんなに疲れ切っていても、寝袋に入って一晩寝ればなんとかなる。そう私に思わせてくれた。暖かい寝袋のおかげで、衣類を最小限までに減らすことができて軽量化を図ることができた。

下着の替えワンセットで薄着でも、歩き続けている限りはそれほど寒くはない。シエラネバダでは日が傾くと急激に冷えてきたので、歩くのはほどほどにして眠った。

長期間の使用で問題となったのは汚れによる保温力の低下だった。PCT後半は汚れのために保温力が大幅に低下して寒さを感じることが多くなった。もともと高い保温力を持つアルパインダウンハガー#2だからこそ、なんとか過ごすことができたと言っていいだろう。一つ上のアルパインダウンハガー#3であったなら、寒さで体力を消耗して歩き切ることができなかったかもしれない。

寝袋の汚れを防ぐためにはインナーシーツを使用した方がいいだろう。PCTは軽量化を優先したため、シュラフカバーやインナーシーツの使用は全く考えなかった。今後、国外での移動は自転車がメインとなる予定なので、多少重たくなってもインナーシーツは持ってゆくことにする。

 

ただひとつの欠点 野宿の時に目立つ

トレイルでは気にならなかったが、町中の野宿で気になったのが寝袋の色。
暖色系だと見た目で暖かく感じるのは間違いない。しかし、安全のために人目を避けなければならない野宿では目立って危険だった!

それなら野宿なんてしなければいい。そんな正論は百も承知だ。誰だって危険で落ち着かない野宿なんてしたくない。真剣にそう思う。だが、私は大富豪ではないので、宿泊代にお金を掛けてしまうと、装備品をケチらねばならなくなる。装備品をケチるとダイレクトに安全に関わってくる。特に寝袋のような重要な道具では。

黄色いシュラフで野宿するたびに、人に見つかるんじゃないかとハラハラドキドキしていた。日没後、暗くなってからでも黄色はかなり目立つ。野宿で目立たない黒か紺色が欲しいと思った。

色以外は軽くて温かくて文句なしの寝袋だった。今後も大事に使ってゆきたい。

自分でした寝袋のその後、、、

その後、洗濯した寝袋で寝てみると保温力がかなり回復してくれたのが分かった。最低気温が5度だった日でも、薄着で寝ていても暑いくらいだった。伸びていたように思えたスパイラルストレッチシステムも復活してくれた。感覚的に保温力は9割以上は回復してくれたかな。これなら今後も十分使用することができる。臭いもすっかり消えて気持ちいい。

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